広島高等裁判所松江支部 昭和38年(ネ)59号 判決 1964年7月22日
控訴人(原告) 谷岡英範
被控訴人(被告) 鳥取検察審査会
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は当審における最初の口頭弁論期日に出頭しないが陳述したものと看做すべきその提出の控訴状の記載によれば、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三五年九月一五日控訴人申立にかかる鳥取検察審査会昭和三五年第四号軽犯罪法違反被疑審査申立事件につきなした検察官の不起訴処分は正当である旨の議決は無効である。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代表者は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の関係は、控訴人において、陳述したものと看做すべきその提出の準備書面の記載によれば、「原判決は検察審査会の議決につき司法裁判所に出訴することを認めた規定がないから、司法裁判所に裁判権がない事項であると判断するも、そのように解することは憲法第三二条第一一条第一二条及び第一四条の規定を侵害することになるから、当然司法裁判所の掌理すべき事項と言わねばならない。」と言うにあるほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
憲法第三二条の「何人も、裁判所において裁判を受ける権限を奪はれない。」との規定は、裁判所の権限として定まつている事項について裁判を受ける権利を保障したものに過ぎない。そして裁判所の権限につき裁判所法第三条第一項には、「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と規定する。ここに「法律上の争訟」とは、法規の適用により解決し得べき当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争を言うのである。ところで、検察審査会は検察官の公訴権の実行に関して民意を反映せしめてその適正を図ることを目的とする制度であり、その議決は、当然に起訴の効果を生じたり或いは検察官を拘束するものではなく、申立人又は第三者の具体的権利義務に何ら直接の影響を及ぼすものではない。さればその議決に関する紛争は、前記「法律上の争訟」に該当せず、検察審査会法その他法律において裁判所に出訴を認めた規定は存しないから、裁判所の裁判権に属しない事項といわなければならない。そして、このように解しても憲法第一一条第一二条第一四条の規定に違反するものではない。
そうすると、本訴請求を請求自体裁判所の裁判権のない事項を目的とするものとして却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋英明 竹村寿 干場義秋)